心臓手術では、周術期に不安や痛みを感じる患者が多い。しかし、手術に伴って生じるこのような不安と痛みは、音楽により軽減する可能性があるとする研究結果を、オランダの研究チームが報告した。この研究結果は、「Open Heart」に1月25日報告された。
エラスムス大学医療センター(オランダ)外科・神経科学部門のEllaha Kakar氏らは、5種類の論文データベースを用いて、心臓手術における音楽介入を検討した研究論文を検索。基準を満たした16件の研究データ(解析対象者は総計987人)を基にメタアナリシスを行った。
これらのデータによれば、心臓胸部に対して行われた外科的処置の90%は、冠動脈バイパス術および/または弁置換術であった。また、患者の手術後の不安と痛みについては、検証済みのスケールやスコアリングシステムにより評価されていた。
音楽介入で使用された音楽の60%は、強いリズムや打楽器の音を含まない、穏やかでリラックス効果のあるもので、ヘッドフォンを通して聞くケースが大半(70%)を占めていた。選曲は、事前に用意されたリストから患者自身が選ぶ、または研究者が選ぶなど、さまざまであった。音楽介入の頻度は、1日数回を1日だけ、またはそれを数日間行うか、1日1回を数日間繰り返すかのいずれかだった。一方、対照群に対しては、音楽介入の代わりに、計画的な休息や標準的なケア、あるいは音楽を流さない状態でのヘッドフォンの装着などが行われた。
その結果、音楽介入により、手術後の患者の不安や痛みが大幅に軽減されることが明らかになった。手術後の音楽介入により軽減した不安の程度は、State Trait Anxiety Inventory(STAI)による評価で4点の減少、視覚アナログスケール(VAS)/Numeric Rating Scale(NRS)による評価で1.05点の減少に相当するものであった。また、数日間の音楽介入により、手術後の不安が最大8日間軽減することも判明した。
一方、手術後の音楽介入により軽減した痛みの程度は、VAS/NRSで1.26点の減少に相当するものであった。ただし、手術前のみ、または手術の前後で音楽介入を受けた場合には、音楽による痛みの軽減効果は認められなかった。このほか、音楽介入を行っても、患者のオピオイド鎮痛薬の使用や入院期間、人工呼吸器の装着時間、血圧、心拍数、呼吸などに有意な変化は生じないことも明らかになった。
こうした結果を受けて研究グループは、「音楽には、薬にあるようなリスクも副作用もない。医療専門家は心臓手術を受ける患者に対して、周術期に音楽療法を行うことを検討するべきではないか」と結論付けている。
今回の研究報告を受けて、米ノースウェル・ヘルス、サンドラ・アトラス・バス・ハート病院で心臓血管・胸部外科の責任者を務めるHarold Fernandez氏は、「医師にとって、患者の手術体験をより穏やかにするための方法を見つけることは極めて重要だ。なぜなら、それにより回復が早まり、予後も改善される可能性があるからだ」と述べている。
Fernandez氏は、今回の研究にはいくつかの限界があり、さらなる研究が必要であることを認めている。それでも同氏は、「個人的には、心臓手術を受ける患者に対する補完療法として、音楽療法の実施を検討し始めるべきだと思う」と前向きなコメントを寄せている。(HealthDay News 2021年1月29日)