フィットネススタジオに流れる音楽のボリュームを下げても、トレーニングへの影響はないという研究結果が報告された。スタジオ内に大音量で音楽を流した方が、トレーニングにより力が入ると考えているインストラクターは少なくない。しかし、あまりに大きい音量は、時に聴力を損なう可能性もあるという。
この研究の詳細は「Noise&Health」に3月22日掲載された。論文の上席著者である米メリーランド大学のRonna Hertzano氏は、「音楽の音量と生徒のトレーニング強度との間に関連性は認められなかった。また、『音量が適していた』と回答した生徒の割合が最も高かったのは、最も低い音量に設定したクラスだった」と述べている。
これまでの研究によると、グループで行うフィットネスクラスの音量は、平均でも90デシベル(近づいてくる地下鉄の電車のような音量)を超え、時に100デシベル(芝刈り機のような音量)を超えることもあると報告されている。なお、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は不可逆的な難聴を防ぐために、94デシベルの騒音環境にいる時間は1時間以内、100デシベルでは15分以内に制限することを推奨している。
今回の研究の参加者は、1時間のスピニングクラス(インストラクターの指導の下で自転車エルゴメーターなどを用いて運動負荷を変えながらトレーニングを行うクラス)の生徒213人で、平均年齢は31歳。クラス終了後に、音量の好み、トレーニング強度、聴覚の変化に関して質問するアンケートを実施。なお、スタジオに流す音楽の音量は93~101デシベルの範囲に設定した。
まず、音量の好みの結果を見ると、音量を最大に設定したクラスの参加者の3分の1近くが「音量が大きすぎる」と回答し、ほぼ同数が「音量を小さくしてほしい」と回答した。より具体的には、平均音量が98.4デシベルを超えた場合に、音量が小さすぎるとの回答より大きすぎるとの回答が23倍多く(P<0.05)、音量を上げるよりも下げてほしいとのリクエストが4倍多かった(P<0.05)。
一方、トレーニング強度については、95.7~98.1デシベルと98.4~101.0デシベルの条件で比較した結果、「高レベルのトレーニングができた」との回答はそれぞれ67.1%、71.8%であり、有意差はなかった(P=0.53)。音量を最小に設定したクラスの参加者では、トレーニング強度のわずかな低下が観察されたが、「平均を下回った」と回答したのは2人のみだった。
聴覚への影響については、研究参加者の25.9%がクラス終了後に「何らかの聴覚症状があった」と回答した。ただし、耳栓などの聴覚保護具を自主的に用いていた生徒は3人のみだった。
Hertzano氏は、「われわれの研究結果から、フィットネスクラスの生徒を難聴のリスクにさらさないために、スタジオの音楽の音量を下げることを強く推奨したい。音量を下げることは、トレーニングへの影響を伴うものでない」と結論付けている。なお、同氏によると、この結果を研究参加施設に伝えたところ、そのスタジオでは音楽をよりソフトなものに変更したという。(HealthDay News 2021年4月12日)